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宮野美嘉『忘却のアイズオルガン』 隣棚の刺客、襲来!!

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8月23日、ガガガ文庫からは初となる宮野美嘉氏の著書が刊行された。


同氏は2010年に第五回小学館ライトノベル大賞ルルル賞を受賞し、以来少女向けレーベルであるルルル文庫にて様々な作品を刊行されてきたが、ライトノベルレーベルでの刊行経験は未だ無い。厨二心くすぐられるタイトルと表紙絵ではあるが実際のところはどうなのだろううか、本文を通して真相に迫っていきたいと思う。



さて、内容に入る前に一つ尋ねたいことがある。上記の文章を見る以前、ルルル文庫の存在をご存じだった方はどれくらいおられるだろうか?



多分半数にも満たないはずだと思われる。学生時代、学校にライトノベルを持ち込み(もちろんブックカバー付き)「こいつマンガ読んどる~」「これエロ本じゃん」とナチス政権下のユダヤ教徒ばりに迫害された経験を持つこの私でさえ、この記事を書くための下調べで初めてルルル文庫の存在を知った程だ。



多分表紙イラストから想像するに、書店でラノベをあさっている時に勢いあまって入りそうになる隣の列の、あのピンクの空間に陳列されているのだと思うが、あの空間は生粋のナードである私にとって毒沼にも等しい空間であるので確かめようはない。



ただこのことから分かるのは、同じ棚に陳列されるのが憚られるレベルで、少女向けレーベルとライトノベルレーベルの溝は深いということだ。まさしくラノベ界のグランドキャニオンとも言える。



しかし少女向け作品チックなライトノベルというものに前例がないわけでは無い。有名処としては『文学少女』シリーズを代表とする野村美月氏の著書が挙げられるし、第22回電撃大賞を受賞した『ただ、それだけでよかったんです』もどことなく少女向け作品の影響が見られる。ジャンルは違えど同じ小説である以上、声優さんがエロゲのアフレコを担当するように、少女小説を書くラノベ作家も存在するだろう。



つまり、その逆は置いておくとして、少女向け作品チックなライトノベルというコンセプトは現実的なものとして十分成立する。








そして問題はそれがおもしろいかどうかだ。



ただ、それに関しても、読者のものさし一つで評価が大きく変わってくる。実際ラブロマンス風味のバトル物として見たとき、この作品は普通に駄作だと思う。冴えない設定に、キャラがぶれぶれな登場人物たち、感動するようなカッコいいシーンがあるかといえば特に無く、バトルシーンに関しても魔法で悪魔を倒すという物語の方向性に対して「やる気あんのか?アァン?」と詰め寄りたくなる程度には微妙。一応詳しく言っておくと手に汗握る心理描写といったものは一切無く、ただイヤーッ、グワーッ、イヤーッ、グワーッ、イヤーッ、グワーッと工場の生産過程めいた状況描写がエンドレスリピートで繰り返すだけという不毛具合だ。



しかしこれをバトル有りのラブロマンス物と見たとき、不思議なことに次巻は買いだなと思える程の良作に化けてしまう。



その理由は宮野美嘉氏が少女向け作品で培ったであろう重厚かつ破綻一歩手前で進行し続けるストーリーと、前衛的な文体、会話における心情の機微の秀逸さの3コンボにある。



本来ストーリーとは起承転結だろうが序破急だろうが、一定の法則性を持って展開するものだ。一般的な商業作品では、1つの区切りの中に細かい起承転結を盛り込むマトリョーシカ方式や起承転結に序破急を組み合わせるハイブリッド方式が主流だが、この作品はただ単にそれらを用いている訳ではない。



何の脈絡もなく破だけが飛んでくるのだ。それも起承転結なんて当たり前、酷い時には起結といった具合で、スナック感覚のごとく気軽さでストーリーを引っ掻き回す。



読者と登場人物の心理は絶え間なく揺さぶられ、下手なバトルシーンを挟むよりハラハラドキドキさせられるが、下手すれば読者を混乱させ、折角のストーリーを台無しにしてしまう諸刃の剣である。



そこで効果を発揮するのが心情描写を極力省き、登場人物の仕草や行動を描写する事に特化した前衛的な文体だ。その一番の特徴はテンポの良さから生まれる勢いだろう。ストーリーを多少引っ掻き回そうが、わざと順番を入れ替えようが、その後ケロッと何事も無かったかのように本筋に戻ろうが、勢いさえあれば読者はそんな些細な事には気付かないだろう。更にふとした瞬間に挟まれる心理描写を一段と際立たせる効果もある。



しかしそれだと、今度は心情描写が物足りないのではと思うかもしれない。だがそれは全くの杞憂だ。(バトルシーンを除いて)
何故ならこの作者、セリフ回しだけで白ご飯が食べれるレベルの心情描写を書き表せる技量を持っているのだ。正直これを見るためだけに買っても価格相応の価値はあると思う。



以上のことから『忘却のアイズオルガン』は今後、ラノベ史に名前を残す1冊になることは想像に難くない。その一端を垣間見たいならば、ぜひ書店まで足を運び手に取ってレジまで運んで頂きたい。





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